結界~ある臨床心理士の記録より~ 感想
★あらすじ
心の深淵に潜むのは、殺意か畏怖か
猟奇殺人の現場で保護された女性
しかし彼女の心は思い扉で閉ざされていた
事件の真相に挑む、ひとりの臨床心理士の物語
猟奇殺人の現場で、一人の女性が保護された。
何ら物証の発見されなかった現場。しかし、事件の唯一手掛かりの女性〈恭子〉は心を閉ざしていた。担当の女刑事「八木薫」は、膠着する捜査の打開のため、昔なじみの臨床心理士(主人公)へカウンセリングを依頼する。
診断の結果は、解離性同一性障害の疑いあり。
主人公は自らの診療所に恭子を転院させ、心理治療を開始したのだが、事件には更なる深みが隠されていることを知るのである……。
解離性同一性障害 Dissociative Identity Disorder
自分の中に複数の人格もしくは人格と呼べるような状態が存在し、それらが交代して全面に現れる。
発症のきっかけの多くは、その人に耐えられないほど辛い外傷体験。
普通のままでいたのではとうてい耐えられず、かつ強い恐怖のために、自分の心を防衛しようとして別人格が生まれると考えられている。
1.二つ、又はそれ以上はっきりと他と区別される同一性又は人格障害の存在。
(その各人格は、環境や自己について知覚しており、関わり、思考する比較的持続する独特の様式を持っている。)
2.これらの同一性、又は人格状態の少なくとも二つが、反復的に患者の行動を統制する。
3.重要な個人的情報の想起が不能であり、普通の物忘れで説明できないほど強い。
本当のキミはいったい……
★感想
まずは恭子の人格を紹介。
「恭子」・・・基本となる人格。事件のショックで心を閉ざしている。
「涼」 ・・・恭子を守るために生まれた人格。嫌な事はこの人格が受け入れる。
「さち」・・・子供の人格。自由気ままだが、いつも何かに怯えている。
「ケイ」・・・さちを守るために生まれた人格。さちがいじめられると出てくる。
「洋子」・・・性欲に正直な人格。峰不二子的存在。
「美沙」・・・奴隷として調教された人格。誰にでも調教されたがっている。
「純」 ・・・戦闘訓練を受けた人格。誰かを狙っている。
「???」 ・・・非常に凶暴な人格。
という感じであります。
恭子には義兄がおり、実父と暮らしていた。
が、父は何かに怯え義兄と恭子に過去に父が習った殺人のやり方の伝授や虐待により2人とも解離性同一性障害を患うことになる。
そして、義兄は父を殺す。
そしてその現場を知り、そして逃げ出した義兄が路地裏で女性を犯していたのをみてさらに心に傷を負っていく。
そしてこの物語はここからスタートするのである。
恭子は父から虐待を受けていたのもあり、唯一の理解者が義兄であった。
そういうこともあり恋心を抱く。
そんな中での義兄のレイプ現場を見てしまうのでありました。
事の顛末はこんな感じであり、そのあたりは結構すぐわかるのでお話の展開としてはわかりやすい。
が、この作品の見どころはそこではなくて、この恭子の人格が形成されていくバックボーンや義兄との関係、義兄も解離性同一性障害である所、そして何より恭子と他人格とのやり取りだったように思う。
そして、某批評空間の感想にも書いてある
「虐待した人間が死んでいても、強迫観念が自身の中にその人格を作り出す」という点、
「事件をミステリーとして締めるのではなく、あくまで臨床によって締めた点」
といったところが面白いところでした。